男と男の体験談目撃談友情小説B
男と男の
体験談目撃談友情小説

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Love in life F‐END‐
【その他】
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病室に戻ると、涼ちゃんはニコッと笑いかけてきた。

俺も、それに答えてニコッと笑い返す。

「光は笑った顔、ずっと変わらないよね」

俺「そうかなぁ」

「俺は、その笑顔をずっと見てきてからわかるの」少し寂しそうに俺を見ている。

俺「ねぇ、涼ちゃん、屋上にいかない?」

「なんで?」不思議そうに俺をみつめる。

俺「ここからじゃ、青空よく見えないでしょ?今日はすごくいい天気なんだよ」

「でも…」

俺「大丈夫。先生には許可とったから」そう言わないと、きっと来ないと思ったから
とっさに嘘をつく。

「そっかぁ、じゃあ行こう行こう」


病院の屋上へあがると、青空が近くに感じられた。

「やっぱり病室から見てるのとはちがうなぁ」


俺は黙って空を見上げていた。あと何度、この景色を二人で見られるのだろう。

あと何度、言葉を交わすことができるのだろう。あと何度…

そう思う度に、胸が締め付けられる。

「ねぇ…」  俺「何?」

「光、おんぶしてよ」   俺「うん」

そっと、車いすの前にかがみこみ、ゆっくりとおんぶする。
その体は順調に体重を減らし、最後のときへと着々と準備をすすめているのがわかった。

軽くなった体で一生懸命に俺にしがみつく姿に声がつまる。
「やっぱり、光の背中って落ち着くなぁ。へへ」   俺「うん・・・」

「前より、やせたからおんぶしやすくなったでしょ」   俺「うん・・・」

しばらく、俺達は空を見上げていた。
すぅーと、吹いた風が心地よく俺達の横を通り過ぎていった。

「光…」そうつぶやいてから、首筋に一粒、また一粒と雫がこぼれ落ちるのを感じた。

そして、俺の目からも止めどなく、同じものが流れ落ちていた。

「光…大好きだよ」   俺「うん・・・」

「光…笑って…」  俺「うん・・・」

「光に会えてよかったよ。本当に・・・ありがとう」 俺「うん」

「光…」 俺「何?」 

「・・・・・」

そう言うと、ゆっくりと、5回、俺の背中に頭突きした。

その意味が俺にはすぐわかった。涙で震える俺を、力一杯抱きしめてくる…。

「光は?…」  俺「…」




2週間後…

マンションの玄関に入ったとき、ふとポストを見た…
そこには、乱雑にチラシが放り込まれていた。

最近は、ただ仕事場と家を往復する毎日を過ごしている。

たった一人残された今の俺は生きる屍のような生活をしている。

もうしばらく、こんなところに気を向けることもなかったな…。
チラシやダイレクトメールを一通り取り、エレベーターに乗った。

玄関を開けると、何とも言えない臭いが俺を包みこむ。
テーブルは、吸い殻とビールの空き缶でいっぱいだ。
一人になってから、俺は酒ばかり飲んで、気を紛らわせてばかりだ。

ちらかった部屋を見渡し、ソファーに取ったチラシを乱暴に投げた。その中に、1通の封筒が見えた。宛先は
山池光…俺宛だ。差出人を見ると、野田涼太郎となっていた。

はやる気持ちを抑え、ゆっくりと封をあけた。
そこには、数枚の便箋が入っていた。


「まずは、光、ごめんなさい。こんなに、光のことを置いていくつもりじゃなかったんだ。
でもね、それと同じぐらい光には感謝してるよ。きっと、光のことだから、今、部屋の中、すごい汚いでしょ。俺がいないと掃除もしないもんね。そんな光のことを、置いていくはすごく心配。

でもね、俺は…最後の時まで、愛する人に愛されることが出来て本当に幸せだったよ。
きれいごとかもしれないけど、誰かに愛されるまま死ねるってことはすごい幸せなことなんじゃないかって思うんだ。人間誰しもが、誰かに愛されたまま死ぬことができるわけじゃないから。その点、俺は恵まれてるんじゃないかってね。

ねえ、俺達が初めて会った日のこと、覚えてる?俺は、今でも鮮明に覚えてるよ。
光はあの時、すごい日焼けしてて、いかにもサッカー少年って感じだったのが印象的だったよ。それから、辛い時も、悲しい時も、うれしい時も、そんな俺の人生の大切な時間をずっと一緒にいてくれたね。そんな時間を光と分かち合えたこと、俺は本当に幸せでした。

それとね、光には、俺と同じぐらいに愛せる人が出来たら、その人のことを一生懸命に愛してあげて欲しいんだ。俺にとっての幸せは、光が幸せになることなんだから。

最後に、
またいつか…俺に会ったときに俺のこと、また好きになってくれますか?」

手紙が読み終わるころには、便箋には俺の涙が何粒も落ちて、文字が滲んでしまった。

『俺も…俺も涼ちゃんに会えて、本当に幸せだったよ…。きっと、何年経っても、涼ちゃんへの思いは変わらないよ。』




10年後・・・

俺「涼ちゃん…覚えてる?最後に涼ちゃんをおんぶしたとき、俺、最後の質問に答えられなかったよね。もしもそこで答えてしまったら、満足して天国に行っちゃうんじゃないかって思ったんだ。でも、結局言えずじまいになっちゃったよね。もう遅いかもしれないけど、今なら言えるよ…涼ちゃん…愛してる…」

『はやくー!!』

麦わら帽子をかぶったその少年はまだ言葉もたどたどしく俺を呼んだ。

俺「今、いくよ」そう大きな声で返答した。

夕暮れどきのヒグラシの声を聞きながら坂を下っていく・・・

線香の香りをくぐり抜け、少年が待つ木陰に向かう。

俺を見つけると、勢いよく木陰から走り出し、笑いながらこういった。



「パパ!おんぶして」



俺「よし、お家に帰ろうか…涼太郎…」



−完−
03/25 01:13 PC[]

【コメント/感想】

[4]
お読みいただきありがとうございました。
ある意味、ヒロさんの温かいコメントを励みに最後まで来ることができたと
言っても過言ではないです。

この結末は、まずはまだ私が20代であり、将来どのように生きて、死にたいかということを少しずつ決めていこうとしている過程での結末なのかなと思います。ヒロさんのコメント驚きと共に、考えさせられました。色々な葛藤の中で、ご結婚され、お子さんもおられます。しかし、私には、多分女性と結婚することは出来ないでしょう。出来ますけど、できませんから…そっちが笑 最近では、医学が進歩して、ゲイ同士でも子供を持てるなんていう話もあるみたいですが、現実的には、自分が最後の時を迎えるとき、どうなるのかなっていう不安をストーリーの中に反映させたのです。つまり、私=涼太郎だとするならば、私は愛する人に愛されるままに死ねたら幸せだなぁと想うに至りました。もちろん、ただの願望に過ぎませんが。しかし、私の 涼太郎にとっての俊介への想いと同じように光も涼太郎のことを想いながら生きていけたら素敵だなと想いました。涼太郎は、光のことを愛し始めてからも、俊介のことを時折思い出します。それは、裏切りではない気がします。これは、私が未来志向の人間ということもあるかもしれませんが、どんなに愛した人間であっても、時間が経つにつれて、生きていた当時の気持ちを維持することは難しいのではないでしょうか。この世に生きているという絶対条件の下でしか、愛を確かめあうことはできません。いくら愛してると思っても、口に出しても、決して返ってくることはないのですから。だから、涼太郎が残した手紙にあるように、涼太郎は光に前向きに生きていって欲しかったのです。
そして、自分の子供に涼太郎と名前をつけたのは、涼太郎の代わりとしての意味ではなく、自分の無性の愛を注ぐ対象として、そこに性的な意味合いはないのかなって私は思いました。語りは光になっていますが、やはり作者の私=涼太郎ですから、そうした視点からの描写になってしまっていることは否めません。
ですから、私からすれば、もし私が死んで、残された愛した人が子供を持って、その人が自分の名前をつけて無償の愛を注いでいることはうれしいと思います。
これが正直な気持ちです。しかし、ヒロさんの言うとおり、残された光はどのような気持ちなのでしょうか。これは、きっと私が想像し得ないことです。

ヒロさんは偶然にもこのストーリーに似た経験をされており、とても驚くと共に、私とは違った価値観、視点で読んで頂いたのだと思います。クローゼットのままで結婚されている方も多いという話をよく聞きますが、割と近くにある話なのかもしれませんね。

以上、また書かせて頂きましたが、涼太郎と光のストーリーの終わりは決して
これが全てではありません。これは、前にも書きましたが、今私が考えてることを二人のストーリーにのせて書いたまでです。D以降のストーリーは正直、今の私には書けません。多分、もう書くことはないのかもしれませんが、重ねてこれまで5年に渡り、連載にお付き合いくださりありがとうございました。

03/29 21:32 PC[]

[3]ヒロ
下のコメント、ちょっと辛辣だったかな、とは思いますが
感じたことを正直に書いた方がいいと思ったので投稿しました。

実を言うと、俺も既婚者で、子どももすでにかなり大きくなっています。
自分に同性愛的嗜好があることは承知していましたが、女とも普通にSEXできるし(笑)
言い寄られるままに結婚して、子どもができて、現在に至っています。

結婚すれば親が喜ぶし、世間体もあるし、みたいな下衆な心根があったことは否定しません。
嫁のことは確かに好きでしたが、それは愛なの?と問われると沈黙してしまうでしょう。
汚いヤツなんです。

でもまぁ、こんなヤツですが、匠さんの作品のファンってことに変わりはないです。
「小説家になろう」も登録してきました。すでにお気に入りに入れています。違う名前ですけど(笑)
03/29 14:17 PC[]

[2]ヒロ
まずは、執筆お疲れさまでした、と言いたいです。
報酬も何もない掲示板で何かを書くって、モチベの維持がとにかく大変だと思います。
勢いで書くことはできても、それを数年に渡って継続するのはすごいことです。

でもこの結末は…辛かったです。
自分が感じたことを正直に書いてみますね。

描かれているラストは、描写こそ美しいですが、とても重苦しいものだと感じています。
光はとてつもない十字架を自分から背負ってしまったのですから。

子どもがいるということは、光は涼太郎の死後、女性と結婚したんでしょう。
その子どもにかつて唯一無二の愛を注いだ男性の名を付けるということの意味。

子どもの名を呼ぶ度に、光は涼太郎との日々を思い出すわけですよね。
それは、結婚した女性への裏切りでもあり、子どもを恋愛の対象にしかねない危険性も孕んでいます。

光はこの先、辛いだろうと思います。
結婚した女性を心の底から愛することはできないでしょうから。
愛を確かめ合う行為の最中も、きっと涼太郎のことを思い出して果てるのでしょう。
息子が成長するにつれ、苦悩と葛藤はますます激しくなることだと思います。

匠さんにここまで連想させる意図があったかどうかはわかりませんが…
ラストが示す未来はそういうものだと、自分は受け止めざるを得ませんでした。
03/29 14:01 PC[]

[1]
あとがき
この小説を書き始めた時は、私がまだ田舎の高校3年生の時でした。未来が見えずに、とても鬱屈した学生生活を送っていました。涼太郎のように辛いことがありながらも、充実した生活とは全く違いました。学生生活が終わりに近づく中で、こんな青春だったら良かったのになぁ…という願望を受験勉強の片手間に書きだしたのが始まりです。そういった意味では、良くあるようなエッチな体験がどうたらとか、萌えることを重視した小説とは少し違うものであって欲しいという思いはありました。
ゲイである以上、いや、人間である以上ですが、誰しもが少なからず、辛い思いや体験をしてきた過去があるはずです。特に、恋愛に関しては、青春期に限定すれば、私達はお互い出会うことだけでも奇跡です。現在では、ネットやアプリなどのツールが整っており、以前よりは出会いやすのかもしれませんが、それでも、本当に愛し合える人と出会うのは、もう確率なんてクソ食らえってレベルです。私自身、こんなのいいなぁと指をくわえて書いてた訳です。今世で徳をつんで、来世でまた人間に輪廻転生できるならば、このような恋愛をしてみたいという切に願っております。そもそも、来世もゲイが前提なの?って所については触れません。
この作品には、たくさんのメッセージをいれてきました。それは、もちろん読者の方へのものであったのですが、私自身へのものでもあったのだと思います。高校生当時の私の言葉が、時間を経て今現在の私に突き刺さるのです。そして、今の言葉が将来の私にも…と繋がるはずです。またいつの日か、私が、そして読者の方が読んだ時に、違った印象を受けるものになるでしょう。学び、経験し、成長する中で、物事の感じ方は変わってきますから。
以前にも書きましたが、この作品の主人公は野田涼太郎、山池光ではなく、私を含めた読者の方、一人一人なのです。だからこそ、その時々の書き手に自分を重ねて読んで欲しいのです。とはいっても、涼太郎は私自身の理想の姿に変わりはないのです。作者特権で、私の実体験を涼太郎にも少なからず経験させており、性格は私をもろに反映させていますから、誰よりも共感できるのは詰まるところ私なのだと思います。
私の作品の特徴は、渡鬼もびっくりな程の長セリフと、某「別に…」の人もびっくりな程、登場人物が泣くことです。こんなに、長くてクサいセリフを言えるのは、きっと皆さんの脳内で登場人物がお好みのメンズに自動変換されているからに他なりません。そうでなければ、想像することもおぞましいです。そして、半分以上の確率で泣いてますから、1リットルじゃ足りないぐらい泣いてます。これは、泣き虫の私を反映したものですが、湿気が強すぎるのではと思った方もいるかもしれません。また、ドリカムの「ア・イ・シ・テ・ルのサイン 〜わたしたちの未来予想図〜」は全体を通したテーマソングですから、合わせてお聞き下さい。この曲があったから、この作品が出来たとも言えるわけです。歌詞を見て頂ければ、全体的にリンクしてますから、面白いですよ。
最後になりますが、私は一人でも読んで下さる方がいらっしゃるならば書き続けようと思い、最後まで来ることができました。これまで、読んで下さった方、ありがとうございました。そして、私が伝えたかったこと…「生と死」。死という終わりがあるからこそ、生という今が鮮やかに映るわけです。しかし、死ぬ時、私達はどのような終わりを迎えるのでしょうか…。何度、考えても、まだ私には答えを見つけられません。しかし、誰かに、恋人、家族、友人、誰でもいいから、たった一人の人から、愛されたまま死ぬことが出来たなら、幸せなんじゃないかと思うようになりました。これが、私なりの答えです。そして、月並みですが、今を精一杯生きることが何よりも大切なのではないか…。やりたいなら、やる。好きなら、好きだと言う。そんな簡単なことが大人になるにつれて出来なくなります。しかし、もっと単純に、もっと子供らしく考えたほうが良いのではないか。そう思うようになりました。少なからず、この小説を書き始めた時の私より、成長出来たのかもしれません。最後までお読み頂きありがとうございました。

P.S こちらにUPした全ての作品を 小説家になろうというサイトにUPしました。
Googleで「小説家になろう 愛してるの境界線」と打って頂けると、一番上に出てくるはずです。そこから、私の名前をクリックすると、作品が全て読めるようなっています。
会員登録しなくても、読めるはずですが、登録すると、評価やメッセージを送れるようになっているみたいです。とても、読みやすい仕様となっているので、一度ご覧下さい。
03/25 01:28 PC[]

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