男と男の体験談目撃談友情小説B
男と男の
体験談目撃談友情小説

感想古順
愛の哲学N‐END‐
【その他】
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光が部屋を出ていってから、俺の部屋に来ることも連絡をすることもなくなった。
本当は、今後の俺達の関係について話し合う必要があるのだろうが、俺はそれを留学の準備という大義名分を掲げて何も考えないことにした…いや、本当は、光の口から、もしくは俺の口から「別れ」という言葉がこぼれることが怖かったんだ…。

これまで、光とはケンカもしたことはあったし、その都度どちらからとなく謝って仲直りしてきた…。でも、今回はこれまでとは全く違う気がした。
もちろん、小さな衝突やお互いの気持ちのすれ違いが積み重なった結果なんだろうけど…
それ以上に、俺と光では将来の俺達の関係に対する価値観が違うのではないだろうか…
そうだとしたら…別れることが最善なのだろうか…。

ふと、棚にかざってある光と俺の写真を見つけた。
これは、俺達が卒業式に撮った写真で、俺が周りの目を気にして少し恥ずかしそうにしているのに対して、光はしっかりと俺に抱きついて満面の笑みを浮かべている奴だ。
あいつの笑顔はずっと変わらないなぁ…それに比べて俺は、いつになっても素直に笑うことが出来ない気がするよ…。

スカイライナーの車窓からの風景を眺めながら、俺はため息をついた。
「涼太郎!!なぁ、聞いてんのか?」
俺「あぁ、ごめん」すぐに作り笑顔をしたが、それは海斗には見破れてしまったのだろう、少し不満そうな表情を浮かべてスマホの画面を見た。
海斗は、成田まで学校を休んで見送りにきてくれた。俺は結局、連絡しなかったから、光は俺がイギリスへ行くことを知らない。

それよりも、あれから光から連絡がなかったことのほうが俺は少しショックだった。いくら、俺が光を傷つけることをしてしまったとしても、メールぐらいしてくれてもいいじゃんか…。俺は、もやもやした気持ちを打ち消すようにお茶を少し口に含んだ。

海斗「お前さ、本当にこのままでいいのか?」
俺「何が?」白々しく答えた。
海斗「わかってるだろ?」
俺「うん…」
海斗「きっと、あいつショック受けるぜ、お前から知らされなかったんだから」
俺「でも、光だって連絡してこなかったもん。もう、いいんだよこれで…」
海斗「ホント、お前ら意固地だよな。まぁ、俺がとやかく言える立場じゃないし…責任もあるしな」
俺「海斗は、何も気にしないでいいんだよ!どうせ、今のままじゃ、言っても言わなくても結果は同じだと思うから…」

そうは言ってみたものの…
結局、俺は光への気持ちを正直に言えば良かったという気持ちで一杯だった。
「待ってて欲しい」たったそれだけが言えなかった。
その後、光がどう返答するのか今となってはわからない。
きっと、こんなことになる前だったら、「待ってるよ」って笑顔で見送ってくれたはずだ。
でも、今は…?

「俺…結局、光のこと待ってるんだ…」
俺は、来るはずのない光のことを待ってる自分のことをバカらしく思えて、ニヤリと笑った。御託を並べて、自分自身、消化したように気取っていても、心の中では光のことをスパッと忘れることなんてできやしなかった。

何度も、何度も、電話をしようと思って光のアイコンをクリックする…
もう見慣れた光の笑顔のアイコン…これは、俺が光と一緒にTVを見てた時に何気なく撮った一枚だった。それを光はいたく気に入ってLINEのアイコンにした。そんな小さな思い出までもが、もう過去の出来事になってしまうのだろうか…。

海斗は、午後の実習のために、そそくさと帰っていった。
俺も子供じゃないから、飛行機に乗ることに不安はないけど、これから1年イギリスに行くのだから、もう少し別れ惜しんでくれても良いのになぁって思った。でも、忙しいのにわざわざ成田まで来てくれた海斗は変わらず優しい。

俺はラウンジに座ってオレンジジュースを片手にスマホを眺めていた。
自分から連絡する勇気はないくせに、連絡を来るの期待して、意味もなく何度もホームボタンを押してしまう俺はこの上なく愚か者だ。
そんなことを繰り返しているうちに、時刻は10時20分になってしまっていた。
11時の離陸にあわせて、俺はゲートへと向かって歩きだした。

ゲートが見えた瞬間、ポケットが震える…
どんなに可能性が低かったとしても、人間は夢見る生き物だ…
現実には起こりえない出来事を夢想しては、現実の厳しさ、残酷さに絶望する。
それを繰り返して、少しずつ強くなっていくのだろう。

光から、連絡が来るはずがないと思っていても、心のどこか、いや、心の中は光でいっぱいだった。どんな内容でも、どんなに短くてもいいから、最後に…日本を発つ最後に光からのメッセージを期待している自分がいた。
俺は、その場に立ち止まってスマホの画面をみた。

海斗「ゲートで待ってる!」

そのメッセージが光ではなく海斗からということ以上に、その意味がよくわからなかった。
海斗は、実習があるからとそそくさと帰っていったところだし、言いたいことなら電話でもすればいいのに…何か忘れものでもしたのだろうか?

俺は、ゲートへと向かって歩みを進めた。
人混みをくぐりぬけ、ゲートの正面に出た瞬間、俺は、自分の目を疑った。
あまりにも、期待しすぎて幻でもみているのかと思った。
空港には、不釣合いなジャージ姿に、中にはサッカーのユニフォームが見えた。
息を切らして俺のことをまっすぐに見つめる眼差しが俺と合った瞬間、全てがわかった。
そして、その姿を見つめれば見つめるほど、ぼやけて見えなくなっていった。
うつむき、立ち尽くしたまま涙を流す俺にゆっくりと近づいてくると、ぎゅっと抱きしめてくれた。俺も、強く抱きしめた。言葉はいらなかった。
俺の頭を何度も撫でてくれる、その手のぬくもりが全てを物語っていた…。

でも、俺はあえて言葉にした。言葉にすることで、現実になる気がしたんだ。
言葉が要らないことも多い、でも、言葉にすることでしか伝われないこともある…。

俺「俺…俺…グスン…光とずっと一緒にいたい…
だから…だから…グスン…待ってて欲しい。俺が帰ってくるまで…」

光「涼ちゃん、ごめんね…。俺、あの時、涼ちゃんにあんなことしたから、会わせる顔がなかったんだ…それに、意地になってた。でも、海斗から全部聞いて、
最初に思ったのは、涼ちゃんに会いたい。ただ、それだけだった。
俺、待ってるから…。ずっと、待ってるから…」

お互いニコッと笑った。

ただ一点の曇りなく笑った。



愛には何が必要なのだろうか・・・

愛情という目に見えない思いの塊だろうか・・・

それとも、言霊・・・言葉に宿る気持ちだろうか・・・

俺は後者だと思う・・・思いは伝えることでしか伝えられない時もある・・・

恋は盲目・・・

愛は盲信・・・

愛とは、何も考えることなく信じ、思うことである・・・

なんて、偉そうに語れる程、俺はまだ哲学を理解してないけどな・・・

ただ、はっきりしてることは、俺が光を好きってこと・・・

そう・・・それでいいのかな・・・

そして、暗くなった機内で俺は眠りに落ちた・・・。


03/06 22:59 PC[]

【コメント/感想】

[3]ヒロ
執筆お疲れさまでした。

いろいろ構想はあったのでしょうが、きりがないから一旦終了させたってところなんだろうなぁと思っています。以前のコメントから、たぶん切ない終わり方になるんじゃないかと予想していたんですが、仲直りできてよかったです。

男性同士のカップルの将来への不安みたいなことがテーマだったと思いますが、その辺は次回作で追及していくのだろうと期待しています。

ありがとうございました。
03/16 00:34 PC[]

[2]こーじ
読ませてもらいました。仲直り出来て良かったですね。
最終話って事で残念ですが、その後の話もいつかお願いしますm(__)m
03/10 20:58 N705imyu[]

[1]
一端、終わりにします。
次回をおたのしみに。
03/06 23:06 PC[]

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